「ブラームスの1番を聴く」12・・・・初期の録音 カラヤン
カラヤンのブラームスの交響曲全集は映像も含めて4種類、
今まで何らかの形で発売になったカラヤンのブラームスの交響曲第1番は、実に以下の17種類を数えます。
 
 ・ アムステルダム・コンセルトヘボウ管  1943年 スタジオ録音
 ・ フィルハーモニア管弦楽団 1952年       スタジオ録音 
・ ベルリンフィル   1955年          ライヴ録音
・ ウィーンフィル   1959年 3月        スタジオ録音
・ ウィーンフィル   1959年10月        ライヴ映像
 ・ ベルリンフィル   1963年10月        スタジオ録音 全集録音
 ・ ベルリンフィル   1970年           ライヴ録音
 ・ ベルリンフィル   1973年           映像収録
 ・ ベルリンフィル   1974年          ライヴ録音
・ ベルリンフィル   1977年           スタジオ録音 全集録音
・ ベルリンフィル   1983年2月        ライヴ録音
・ ベルリンフィル   1983年8月        ライヴ録音
・ ベルリンフィル   1984年          ライヴ録音
・ ベルリンフィル   1987年1月        スタジオ録音 全集録音
・ ベルリンフィル   1987年1月        映像収録 全集録音
・ ベルリンフィル   1987年2月        ライヴ録音
・ ベルリンフィル   1988年5月        ライヴ録音


・アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(1943年9月6−8、21,11日 アムステルダム  スタジオ録音)

ブラームスの交響曲第1番のカラヤンの初録音は、ドイツポリドールへのコンセルトヘボウ管との演奏です。

「録音史」の項でも書きましたが、コンセルトヘボウ管とは他に「ドンファン」「魔弾の射手」序曲、序曲「レオノーレ第3番」、「7つのヴェールの踊り」の録音を残しています。

以後カラヤンがコンサートを含めコンセルトヘボウ管を振った記録はありません。

1943年のカラヤンは、ベルリン国立歌劇場管の数回とコンセルトヘボウ管のコンサートを1回(コンセルトヘボウ管とのコンサートはなかったという説も有り)振っているだけで、仕事を干されていた時代です。

このコンセルトヘボウ管との一連の録音が、いかなる理由で実現したのかはわかりませんでした。

当時のコンセルトヘボウ管は、40年以上音楽監督として君臨していたメンゲルベルクの強烈な個性がオケに刷り込まれていて、このカラヤンの演奏にもメンゲルベルクの影響が大きく出ています。

弦楽器に多めのヴィヴラートをかけながら甘くロマンティックに歌わせます。
メンゲルベルクが多用していたポルタメントもこの演奏でも時おり聴かれ、後のカラヤンの演奏に特徴的だったレガートも聞こえます。

カラヤンはトスカニーニの影響を大きく受けたと一般にはよく言われていますが、この演奏を聴くと、オケの統率や音楽の歌わせ方などについてはメンゲルベルクの影響を大きく受けたのではないかとも思えます。


*ポルタメント 【 portamento】
ある音から他の音に移る際,音高を連続的にずらしながら移行する奏法。
*レガート 【 legato】
音と音の間に切れを感じさせず,滑らかに続けて演奏する方法。



第1楽章序奏は流れるようなレガート奏法で開始。劇的であるよりも老成した寂しさも感じさせます。アレグロは意外と重く、リピートのあと、sempre  ppとなる198小節めでいきなりの減速。298小節の「運命」の動機を大きく浮き上がらせながらのクレシェンドは効果的ですが、しばし音楽の勢いが減退する部分が気になりました。

第2楽章の弦楽器はヴィヴラート多め。
ポルタメントではありませんがたっぷりとした甘い表情が特徴的。
90小節からのポルタメントたっぷりのヴァイオリンソロは唯我独尊状態。
これはカラヤンの指示ではないと思います。
当時35歳のカラヤンには口を出せない部分だったのかもしれません。
終結部のバランスの良いオケの美しい響きが印象的。

第3楽章クラリネットの甘い響きは実に美しく、木管の次に入るホルンのタイミングが絶妙。

第4楽章の遅いテンポの序奏では弦楽器がたっぷり歌い、低音のずしりとした音のタメは、ベルリンフィル時代のカラヤン独特の個性で、既にその萌芽が見出せます。

アルペンホルンの響きから主部のAllegro non troppoに入っての明るく爽快な気分で朗々と歌いますが、115小節あたりから幾分テンポを落とし、オーボエソロでさらに減速。

テーマの再現は遅いテンポで歌い、220小節めの弦楽器の細かな動きの部分で徐々にテンポを上げて最後の盛り上がりに備えていました。

269、270小節の木管楽器にホルン付加。


前へ突き進む演奏ではなく、美しく歌わせることに重きを置いた演奏で、落ち着きは感じられますが、若々しさや覇気は後退していました。

時代の影響を受けながらも、後のカラヤンの特徴が各所で見出せるのが面白いと思います。


この演奏ではあまり気になりませんでしたが、カップリングされている「サロメ」からの7つのヴェールの踊りには部分的にオケの乱れが感じられました。第二次世界大戦末期の影響がオケにも出ているようです。

今回聴いたのはグラモフォンが出した復刻CDの国内盤です。
戦時中のSP録音なのでそれなりの音で、ティンパニ音などかなり控えめに響きます。
(2016.03.10)