「ベートーヴェンの7番を聴く」74・・・フランス系の指揮者たち クリュイタンス
「アンドレ・クリュイタンス(1905 - 1967)」

ベルギー、アントワープ生まれの名指揮者。祖父の代からの指揮者の家系で、アントワープ王立フランス歌劇場常任指揮者の父から音楽教育を受け15才で王立歌劇場の合唱指揮者、22才にして王立フランス歌劇場常任指揮者。その後トゥルーズ歌劇場、リヨン歌劇場、ボルドー歌劇場、パリ・オペラコミークの音楽監督を歴任。1955年には初めてバイロイト音楽祭に登場。
一方コンサート指揮者としても、1943年からパリ音楽院管絃楽団の指揮者陣に名を連ね1949年から1963年までパリ音楽院管絃楽団の常任指揮者。

クリュイタンスにはベートーヴェンの交響曲全集録音があり、第7番には3種類の録音があります。

・1957年2月   ベルリンフィル    スタジオ録音
・1957年     パリ音楽院管     ライヴ録音
・1960年3月   ベルリンフィル    スタジオ録音

・ ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1960年3月 ベルリン グリューネルワルド教会 スタジオ録音)

ベルリンフィル初のベートーヴェン交響曲全集録音となったEMIへの録音。

クリュイタンスのベートーヴェン交響曲全集録音は1955年の「田園」から始まりました。この時期はモノラルからステレオへの移行期にあたり、「田園」と1957年2月の第7番まではモノラル録音。
1957年12月の第9番からはステレオ録音となりました。

1960年1月の第1番の録音で全曲録音は完結しましたものの、モノラル録音だった「田園」と第7番は1960年中にステレオ再録音をおこなっています。

なおEMIは、ドイツの指揮者シューリヒトとパリ音楽院管を起用して全集録音をクリュイタンスの全集と同時進行で完成させていますが、こちらは全てモノラル録音。
第9のみ実験的なステレオ録音が残っています。

このクリュイタンスのベートーヴェンは、全ての音をクリアできっちり鳴らした美しくも整然たる演奏でした。

この演奏は、音楽評論の大御所吉田秀和氏が著書「世界の指揮者」の中で取り上げ、批判していたことで有名です。その内容はアゴーギクとダイナミクの関連性の希薄を指摘したものと記憶しています。

確かにがっしり遅めの不動のテンポが全曲を支配し、変化に乏しいという指摘はそのとおりなのですが、明快でいて楷書風の音楽造りがベルリンフィルの確かな腕によって非常に聴き映えのする演奏だと思います。

第一楽章冒頭から堂々たるテンポで開始。Vivaceも遅めのテンポでほぼ変化なしに進みます。スコア片手に聴いていると全部の音がきっちりバランス良く鳴っているのが壮観。
通常テンポを落す267小節付近でもテンポは動きません。278小節のティンパニが聞こえないのは編集ミス?
342小節のフルートをクラリネットと同じ音型に改変しているようです。

第二楽章は明朗な冒頭和音が印象的、サラリと流しながら広がりのあるクリアな響きです。
第三楽章は64小節めのオーボエの短い下降音型のあたりから加速。
ノーブルな中間部では、倍音成分が教会内に豊かに響きます。フォルティシモでのトランペットの伸びのある響きは素晴らしいもの。

第四楽章も軽快に飛ばしていきます。最初はバスを軽めにしてスピード感を演出しているとも思っていましたが、後半のコーダ直前からバスを強調しての充実した音が素晴らしいものでした。

今回聴いたのは東芝EMIが70年代に出した廉価盤LP。
ステレオ初期の古い録音で響きはいささか平板ですが、演奏の良さで楽しめました。
(2011.10.15)