「ベートーヴェンの7番を聴く」52・・・・独墺系の指揮者たち4、ベームその2
・ ウィーンフィルハーモニー管弦楽団          
(1975年 3月16日 東京NHKホール ライヴ録音&映像)

今でも語り草となっている1975年のベーム&ウィーンフィル来日公演の記録。
NHKの招聘で実現したベーム2度目の来日は、ウィーンフィルを伴ったことによって歴史的な公演となりました。

公演の多くはNHKFMで生中継され、テレビで何回も放送されました。
このことがきっかけとなってベームの国内での人気が沸騰し、当時高校生だった自分も、ラジオから流れてくる本物の音楽に感動しながら聴いたことを覚えています。

DVDで見ると弦楽器は16型で木管楽器は倍管に増員、コンマスにヘッツェル、第2ヴァイオリントップにはウィーンフィル楽団長のヒューブナー、トランペットのホラーやクラリネットのプリンツなど、ウィーンフィルの全盛期を支えた名物奏者たちがずらりと並ぶのが壮観です。この面々がベームの指揮の下、本気になって演奏するのだから凄いことになっています。

ぐっとタメながら入る第一楽章冒頭はティンパニが一瞬早く入りますが、次のフレーズからはぴったり流れていきます。オーボエとホルンの柔らかな響きはまさにウィーンフィルの音。119小節からの第2主題のレガートも美しくコーダの高揚感も見事。

深く沈潜していく第二楽章は、弦楽器群の 溶け合った響きがひとつの楽器のように聴こえます。第二ヴァイオリンが入るタイミングも絶妙。101小節の第二ヴァイオリンの何気ない動きも意味ありげに聞こえます。最後の二つの音はアクセントとしてデクレシェンド。

デモーニッシュなリズムの奔流で聴かせる第三楽章は、中間部の田園的な静けさの中で208小節から巨大な音響が立ち上がります。
第四楽章は、熱狂よりも意外なほどの冷静で進行しますが、終盤に向けて緊張感は増大。ウィンナホルンのハイトーンも見事に決まり、370小節と478小節のトランペットのfffは人間業とは思えぬ凄まじさで巨大なNHKホールに響いていました。

録音から息を詰めて聞き入っている聴衆の雰囲気がヒシヒシと伝わってきます。当時の興奮がまざまざと思い出されます。
ウィーンフィルの自発性を生かしながら、ベームらしい剛直さを聴かせた名演でした。

DVDには、当日の前プロとして演奏された交響曲第4番第一楽章のリハーサル風景が特典として収録されています。

ここでベームは、第一楽章冒頭の入りを何度も何度もやり直しています。私にはどこが悪いのかさっぱりわからなかったのですが、「2番ファゴット!」というベームの声。
どうやら2番ファゴットのバランスが微妙に小さく、タイミングが多少遅れていたようなのです。
恐ろしいほど緻密で、細部まで妥協しないベームの職人気質を垣間見たリハーサルでした。

今回はDGの国内盤LPとDVDで聴きました。いずれもNHKの収録音源でFM放送で使われたもの。
デッドなNHKホールで、少ない本数のマイクで収録したようで、LPの音は奥行きや個別の楽器の立ち上がりがはっきりしないのが気になりました。

一方のDVDは、当時のビデオ映像にLPと同じFM放送で使われた音をシンクロさせたもの。
映像とのズレなどもなく違和感はありません。画像は幾分不鮮明ですが、音はデジタル処理された分すっきりとした音になりました。
(2009.09.11)