「ベートーヴェンの7番を聴く」53・・・・独墺系の指揮者たち4 ベームその3
今回はドイツの放送交響楽団を振った二つの録音を紹介します。

・ バイエルン放送交響楽団          
(1973年 ミュンヘン ヘラクレスザール ライヴ録音)

きっちり端正にまとめた演奏でした。ライヴらしい即興的な動きと熱気も感じられます。

第一楽章冒頭からテンポの動きも少なく即物的に進みますが、音楽に余裕と風格が漂い、躍動の主部から次第にテンポを上げ再現部へ突入する部分など老練な出来。
コーダに入った後の401小節からのヴァイオリンをレガート気味に弾かせ、369小節の密度の濃いホルンのクレシェンドも効果的。

チェロが美しい第二楽章は74小節裏拍のホルンが大きくブレスをするようなタメを作ります。小気味よいリズミックな第三楽章は、身軽でフットワークの良さが1975年以降の演奏と印象が異なり、中間部の浮遊感、巨大なフォルティシモとティンパニの強打も印象的。
第四楽章もスマートに進行。コーダの入りの滑らかさは手馴れた強みが感じられました。

オケもうまく、ベームの指揮も手馴れたもの。必要充分すぎるほどの名演奏ですが、ベームの他の演奏に比べると今ひとつ特徴に乏しいと思いました。

今回聴いたのはカール・ベームコレクションという出所不明のCDです。
FMのエアチェック音源のようで、ステレオ録音ですがレンジの狭い窮屈な音。



・ ケルン放送交響楽団          
(1978年6月22日 ケルン・ギュルツェニヒホール      ライヴ録音)

曖昧さのないベームの解釈に見事に応えるオケ。力のあるオーケストラが全力を出し切った爽快感の感じられる名演。

第一楽章導入部はウィーンフィルとの来日公演に近い遅いテンポ。一音一音を確かめながらもゆっくり大きく音楽が広がります。主部に入ると響きは軽く、フレッシュに生き生きと展開。168小節でのヴァイオリンの粘り、257小節のセカンドヴァイオリンD音の強調など、この演奏独自の解釈を聞かせながら展開部へ突入。330小節ではクラリネットを強調しつつコーダに入ってからはデモーニッシュに盛り上がります。

下を支えるチェロとコントラバスのピチカートが大きく歌う第ニ楽章は、ヴァイオリンの悲痛な歌が中間部の晴れやかさと対照的。若々しい躍動感に満ちた第三楽章では、396小節裏拍のティンパニの一撃が絶妙のタイミング。

続く第四楽章は、しなやかで柔軟な動きを見せつつ自然のテンポ感で次第に緊張を高めていくのがお見事。コーダに入ってから、弦楽器群が掛け合いながら加速していく箇所には興奮させられました。

今まで聴いた一連のベームの同曲演奏中で、一番感銘を受けた演奏です。来日公演の3年後の演奏ですが、音楽に衰えは感じられませんでした。

今回聴いたのは、80年代のFM放送を私がエアチェックしたものです。録音後20年以上が経過したカセットテープへの録音なので最新の音とは隔たりがありますが、演奏の素晴らしさは充分伝わる音です。
(2009.09.21)