「ヨゼフ・クリップス(1902〜1974)」 ウィーン生まれ、ワインガルトナーのアシスタントから始まり、ドルトムント、カールスルーエの市立歌劇場の指揮者を歴任後、1933年からウィーン国立歌劇場の指揮者。 ナチスが台頭すると収容所に送られたりしていましたが、戦後フルトヴェングラーやカラヤンなどの主要な指揮者達が演奏禁止処分にあう中で、ウィーンに戻り孤軍奮闘。 ウィーン音楽界の復興に力を注ぎました。 ベートーヴェンはロンドン響との交響曲全集があり、第7番はコンセルトヘボウ管とのライヴも出ていました。 ・ロンドン交響楽団 (1960年1月12−16日、6月3−5,12日 ロンドン ウォルサムストウタウンホール スタジオ録音) EVRESTレーベルのロンドン響との全集中の録音。国内では70年代初頭に廉価盤の6枚組み全集セットとしていきなり出ました。 6,000円で買えるベートーヴェン交響曲全集ということで、当時は評判になりましたが、現在ではチョコレートの缶のような容器に入って、全9曲で1,000円を切る驚異的な価格で出ています。 これでは格安廉価盤専門指揮者のような気の毒な扱いのクリップスですが、今月(2009年10月)、LP!の発売が予告されています。 200グラム重量盤仕様LP10枚組セットで、ボーナスとして45回転盤の「エグモント」序曲が付き、価格は32,000円! どうやら演奏の内容よりも、録音の良さと価格で評判になっているという傾向があるようです。かわいそうなクリップス。 クリップスのベートーヴェンについては8年前の拙コラム「第九を聴く」で、以下のような記事を書きました。 「・・・・・あらためて聴いてみると、ロンドン響もうまいしクリップスの指揮も一本芯の通った緊張感のあるなかなかの好演です。テンポ運びなどに伝統的な解釈は見られますが、歌わせ方も自然で楽譜も譜面に極めて忠実。」 この7番も同じような演奏です。柔らかで品の良い響き、ロンドン響からまるでウィーンフィルのような音を出しています。テンポの変化も少なめで、フォルテも刺激的に響きません。 第一楽章冒頭のふわりとした柔らかな開始にまず驚きました。22小節めのオーボエソロ前の弦楽器のデミヌエンドからピアノへの自然な移行が見事。フルートとオーボエが溶け合った響きが美しく。ヴィヴァーチェもほのぼのとした雰囲気が漂います。一定のテンポで進行、多くの指揮者がテンポを上げる再現部前の270小節でも加速せず、300小節からのオーボエソロの前も落としません。コーダのバスの響きは充実。 ベラボーにうまいホルンはタックウェルでしょうか。 第二楽章は速めのテンポ。弦楽器のバランスが良く、淡々と美しく穏やか。 自然の流れに乗った第三楽章のトリオは速めのテンポ、クラリネットソロの美しさが際立ちます。 第四楽章では単調になりがちな気配にティンパニを強調、コーダに入ってからの弦楽器の掛け合いからの加速とスピード感は見事なものでした。 田園的な穏やかさと品のよさが全曲を支配。響きの美しさで聴かせる演奏で、燃え立つような迫力を求める方には向きませんが、癒し系のベト7として私は楽しんで聴きました。 今回聴いたのは70年代初頭に日本コロンビアから出た全集LPです。 35ミリマグネティックフィルム使用の、当時としては優秀録音を売りとして発売された演奏ですが、このLPを聴く限りではいくぶん響きが甘く、丸い音が気になりました。 第三楽章で音揺れがありますがこのLP固有のものかもしれません。 (2009.10.12) |