「ヘルベルト・フォン・カラヤン(1908〜1989)」 ベートーヴェンの交響曲第7番は、カラヤンのスタジオ録音の中では「悲愴」の7種に次ぐ6種の正規録音があり、その中の4種類は交響曲全集中の録音です。 ・ ベルリン国立歌劇場管 1941年6月 スタジオ録音 ・ フィルハーモニア管弦楽団 1951年 1952年 全集 スタジオ録音 ・ ウィーン響 1957年2月18日 ライヴ録音 ・ ウィーンフィル 1959年3月 スタジオ録音 ・ ベルリンフィル 1962年3月 全集 スタジオ録音 ・ ベルリンフィル 1968年4月 ライヴ録音 ・ ベルリンフィル 1970年6月 ライヴ録音 ・ ベルリンフィル 1976年 1977年 全集 スタジオ録音 ・ ベルリンフィル 1977年11月 ライヴ録音 ・ ベルリンフィル 1978年1月 ライヴ録音 ・ ベルリンフィル 1983年12月1−3,5日全集 スタジオ録音 ・ ベルリンフィル 1983年12月3日 ライヴ演奏 さらに3種の映像も残されています。 ・ ベルリンフィル 1971年 ライヴ映像 全集 ・ ベルリンフィル 1979年5月 ライヴ映像 断片 ・ ベルリンフィル 1983年11月29日〜12月6日 ライヴ映像 全集 ライヴ録音も含めると実に15種類。 ・ ベルリン国立歌劇場管弦楽団 (1941年6月 ベルリン スタジオ録音) カラヤンのベートーヴェン初録音です。カラヤンの最初の録音は、ベルリン国立歌劇場管弦楽団を振って録音されたモーツァルトの歌劇「魔笛」序曲でした。 翌年の1939年9月30日にはベルリン国立歌劇場で歌劇「フィデリオ」を、10月には楽劇「トリスタンとイゾルデ」を取り上げてセンセーショーナルな成功を収め、この時からカラヤンの栄光のキャリアが始まります。 若々しくもしなやかな音楽運びは、同時代の指揮者とは異なる現代的なスマートさが感じられます。 第一楽章冒頭和音はカミソリでザクッと切るような短い開始。テンポは遅め。15小節のヴァイオリンの二分音符はレガートで典雅に歌います。トランペットの音が幾分大きく、2本のホルンのバランスも悪いのは録音に起因するのかもしれません。89小節の1番ホルンが一瞬遅れています。140小節から150小節にかけて音をタメ気味にレガートしながらの長大なクレシェンドは見事。 オーボエのソロが入る前209小節のティンパニをトレモロとしていましたが、これは非常に珍しい改変で、この後のカラヤンの録音には聞かれません。 358小節からの1番ヴァオリン2拍目の付点8分音符を粘りがちに演奏させているのもこの演奏のみ。最後の部分のたたみかけるような加速はかなり強引で、力でねじ伏せたような印象。 第二楽章の最初の和音短めにあっさり済ませ、続く低音弦なめらかにロマンティックに歌います。第二変奏の第2ヴァイオリンを大きくクレシェンドさせながら第1ヴァイオリンの旋律に受け渡す部分のスマートさ、中間部の110小節から微妙に加速をかけながらクラリネットソロに受け継ぐ部分も美しく、コーダに入る直前の弦楽器の幾何学のような整然たる進行も見事。 しなやかで柔軟弦楽器の動きを聞かせる第三楽章も、中間部のフルートソロの抜群のうまさが際立っています。 第四楽章の最初から後打ちのトランペットが存在感を主張。30小節めから加速し快進撃が始まります。74小節の2拍めで弦楽器のテヌート強調し、再現部のアウフタクトの押し込みも強烈。コーダからは、スポーツカーを飛ばすような爽快感も感じられ、440小節から叱咤激励するカラヤンの声まで録音されていました。 颯爽とした音楽運びの中に、オケをのびのびと自由に飛翔させている見事な演奏でした。同時代の指揮者の中でも、カラヤンは若い頃から傑出した存在であったことがわかります。 ただ、後のカラヤンの演奏では聴かれなくなった素朴な重厚さもあり、時として鎧を着込んだようないかめしいさが感じられるのが面白いと思いました。 今回聴いたのは、ポリドールが出していたカラヤン初期録音集のCDと、Histryから出ていたカラヤンBOX中のCDです。 Histry のCDは盤によって復刻の出来不出来の差が大きいのですが、これは不出来な方の一枚。正規盤はややメタリックですが、ホールの残響も良く捕えた明瞭な音で楽しめました。 (2009.12.06) |