「ベートーヴェンの7番を聴く」63・・・・独墺系の指揮者たち8 カイルベルト
「ヨゼフ・カイルベルト(1908 - 1968)
ドイツのカールスルーエ生まれ、17才でカールスルーエ国立歌劇場の練習指揮者として出発、カールスルーエの総監督の後バーデン国立歌劇場の音楽監督。1945年ドレスデン国立歌劇場音楽監督、バンベルク響の主席指揮者。ハンブルクフィルやバイエルン国立歌劇場の音楽監督を歴任。N響名誉指揮者。
1968年、ミュンヘンで「トリスタンとイゾルデ」の指揮途中に心臓発作に襲われ急逝。

カイルベルトの交響曲第7番には以下の3つの録音があります。
・バンベルク響       1958年  ライヴ録音
・ベルリンフィル      1959年  スタジオ録音
・バイエルン放送交響楽団  1967年  ライヴ録音

・ベルリンフィルハーモニー管弦楽団
(1959年       スタジオ録音)

カイルベルトは50年代から60年代初めにかけて、ドイツのテルデック(旧テレフンケン)に、第1番から8番までのベートーヴェンの交響曲録音を残しています。
この一連の録音は、カイルベルトが首席指揮者を務めたバンベルク響とハンブルク国立フィルが起用されましたが、第7番のみベルリンフィルで録音されています。

第一楽章から不動のテンポが支配し、多くの指揮者がテンポを上げる展開部の270小節でも大地にどっかりと根を下ろし動かざること山の如く。

第二楽章の純朴そのものの響きには、カラヤンの影響が未だ及んでいない古き時代のベルリンフィルの特徴が聴かれ、第三楽章では、コーダの最後のAssai meno prestの2小節でテンポを自然に落としつつ急転直下の終結部を迎える鮮やかな切り返しが印象に残ります。

フィナーレでは、カイルベルトの飾り気のない頑固さとベルリンフィルの鋼のような響きとの相乗効果で、音楽は堂々たる威容となって聴き手に迫ります。まさにベートーヴェンを聴く醍醐味。
158小節のホルンの強奏も凄まじく、続くティンパニのフォルティシモの炸裂。コーダの370小節からは、今まで満を持していたかの如く深い部分からぐーっと持ち上がるような加速と大きなクレシェンドで物凄い効果をあげていました。


この演奏はLP時代にキングレコードの廉価盤で慣れ親しんだ演奏ですが、テンポの動きも地味だし、ベルリンフィルを起用したわりには特徴のない存在感の薄い演奏だったとの印象がありました。

今回久しぶりに聴いてみても、第一楽章の穏やかな開始とピアノの繊細さが意外ではあるものの、最初のうちは手堅いだけの演奏としか感じませんでしたが、第二、第三楽章と聴き進めていくうちに、自然な音楽の流れの中に堂々たる風格が感じられ、フィナーレの圧倒的な演奏を聴くに及んでカイルベルトの芸格の大きさに圧倒される思いがしました。

静から動への変換も鮮やかで、力を入れずに自然にオケを導きながら大きな音楽を作り上げていく見事なベートーヴェンでした。

今回聴いたのは、70年代の国内盤LPと外盤CDです。LPは片面に全曲を詰め込んだ上に高音が強調されかなり苦しい音。一方のCDもマスターテープの経年変化が感じられますが、この当時の音としては水準並み。
(2010.06.26)