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今回は、2003年からベルリンフィルの芸術監督に就任したサイモン・ラトルの演奏です。1955年にリヴァプール生まれ、打楽器と指揮を学び19才でジョン・プレイヤー指揮者コンクールに優勝。1980年からバーミンガム市交響楽団の芸術監督に就任。内外のオーケストラからの芸術監督の要請を全て断りバーミンガム市響に専念、このオーケストラを国際的なレベルにまで引き上げました。 バーミンガム市響の芸術監督時代に数度来日し、沼津でも公演を行いました。 その時シンフォニア・ダ・レクイエム(ブリテン)とアンコールで演奏されたバーンスタインの「キャンディード」序曲の名演は、今でもはっきり覚えています。 ラトルの父がジャズプレイヤーだったこともあり、ラトルも若い頃からジャズバンドでドラムスを叩いていたそうです。 今回はロンドンシンフォニエッタを振ったオリジナル版の録音を聴いて見ました。 ・ロンドン・シンフォニエッタ ピアノ:ピーター・ドノホー (1986年7月、1987年1月 ウェンブリーCTS スタジオ ) 1924年初演版による演奏。「ザ・ジャズ・アルバム」というタイトルのCDで、 これはガーシュインと関係の深いポール・ホワイトマン楽団のオリジナル編曲を集めた 貴重なアルバムです。他にミヨーの「世界の創造」、ストラヴィンスキーの「エボニーコンチェルト」など、ジャズに関係の深いクラシカルな作品も収録されています。 1987年のロンドンのプロムスでもこのメンバーで、ラプソディー・インブルーが とりあげられました。 冒頭部分は、ドラムのアクセントに乗ってテンポのゆれも少なく、落ち着いた雰囲気で進みます。ラトルとしては随分と常識的だなと思いきや、練習番号6のテンポ・ジュストから一転、ぐんぐん加速し、ゴキゲンで快適テンポで飛ばします。テナーサックスをブリブリと強調し、まるでサーカスバンドのような賑やかさと楽しさです。 アンダンティーノもヴィヴラートたっぷりに歌い上げ、後半部分には再びぱっと気分を切り替え鮮やかなテンポの切り替えを見せていました。 日本の伝統的音楽の手法である序・破・急の流れを見事に再現したかのような名演。 きらびやかなドノホーのピアノも満足の出来でした。 ・ロンドン・シンフォニエッタ ピアノ:ロナルド・ブラウディハム (1985年8月26日 ロイヤルアルバートホール ライヴ録音) スタジオ録音の1年前、プロムスでのライヴ・エアチェックテープ。 演奏時間は、 1985年 ライヴ 15分36秒 1986年 スタジオ録音 16分 2秒 30秒近くの時間差があり、後のスタジオ録音とだいぶ印象が異なります。 全体にスリムな響き、音楽の流れにうまく乗った白熱の演奏。 冒頭のクラリネットソロから続く各楽器が自由なテンポのゆれを見せ、われもわれもと自己主張を見せる中間部分のトランペットやトロンボーンのソロからは、奏者が心から楽しんで演奏している様子がストレートに伝わってきます。 音楽の流れに上手く乗りながら、ジャンジャンとリズムを刻むバンジョーの明るい響きと ハイハットの小気味よさ。クラリネットのノリの良さはスタジオ録音と別人のように思えてきます。トランペット奏者の比較的ダークな響きは明らかにスタジオ録音とは別の奏者です。無類のテクニシャンと想像されるピアニストは知らない人ですが、ジャズ畑の人かもしれません。このピアノが実に即興的で、ドノホーの上を行っています。 各奏者の自発性を尊重しながらライヴらしい即興を見せた、燃焼度の高いスタジオ録音以上の名演。
(2004.03.15)
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