今回は、オリジナル楽器による個性的な演奏を残している二人の指揮者による「惑星」
オリジナル楽器の奏法をそのままに採用したノリントンと、ホルストの時代の演奏様式を追求したガーディナーの対照的な演奏です。
「ロジャー・ノリントン(1934〜)」
ケンブリッジ生まれ、ボールトに指揮を学ぶ。ロンドンクラシカルプレーヤーズを組織し、オリジナル楽器と奏法を駆使し、オリジナル楽器ブームの立役者となりました。
・シュトゥットガルト放送交響楽団
(2001年6月27日〜29日スタジオ録音))
古楽器指揮者として出発したノリントン。この惑星は、ヴィヴラートを控えた古楽器の奏法そのままのスマートで透明感溢れた演奏です。
惑星が作曲されたころの20世紀初頭の演奏スタイルは、ポルタメントを多用したりテンポを変えたりといった楽譜の内容を演奏家が恣意的に変えたロマンティックなスタイルが主流だった時期なので、ホルストはこのようなスタイリッシュでモーツァルトの時代のような古典的な演奏は想像すらしていなかったように思えますが、ノリントンのようなタイプ演奏もなかなか新鮮な個性を感じさせます。遅いテンポポで第一拍に強いアクセントでひたすら迫る“火星"のズチャチャチャッチャ・チャチャチャのリズムは、脳の奥深くに食いこむような刺激的な演奏。ヴィヴラートを極力押さえ内声部を立体的に浮き上がらせた他の曲も秀逸、特に清楚な美しさを持った“金星"は印象的でした。
「ジョン・エリオット・ガーディナー(1943〜)」
南イングランドのドーゼットシャー生まれ、15才にして合唱指揮者として、頭角を表わし、モンテヴェルディ合唱団を組織し、ルネッサンス期の合唱曲に優れた演奏を残しました。
その後レヴォルショナル・ロマンティック管を組織し、オリジナル楽器による幻想交響曲など、名演を残すかたわら、北ドイツ放送交響楽団の首席指揮者となり、通常の楽曲でも優れた解釈を見せる才人。
・フィルハーモニア管弦楽団、モンテヴェルディ合唱団
(1994年2月 スタジオ録音)
ガーディナーの大叔父は、「惑星」の初演の場を提供した当時のイギリス音楽界の大立者。
この演奏はノリントンと異なり、むしろホルストの時代の演奏スタイルを反映させたロマンティックな演奏でした。
“火星"では、事細かに書かれたクレシェンド、デクレシェンドを緻密に再現、間断なく響く前半部分のタムタムのトレモロは、まるでウィンドマシンのようにビュービューと聞こえます。
ロマンティックで懐かしさに満ちた“金星"“水星"は実に良く、早いテンポで軽業師の名人芸を見るような「木星」も、愉悦感に満ちた見事な出来で、慈愛に満ちたアンダンテ・マエストーソと見事な対比を見せていました。
(2002.09.07)
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