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「第九を聴く」12 戦前派巨匠の時代?G クライバー
エーリヒ・クライバー(1890〜1956)。
ウィーン生まれのエーリヒ・クライバー。今では息子のカルロスが有名ですが、父エーリヒも息子に劣らず強いカリスマ性を持った大指揮者です。
第二次世界大戦前にはベルリン国立歌劇場の音楽総監督として、ベルクなどの当時の現代音楽を積極的に紹介しました。その後ナチと衝突後し、南米に活動の本拠を移しました。戦後はヨーロッパ楽壇に復帰しましたが、ドイツを中心に本格的な活動を始めたばかりの時期に亡くなってしまったので、そのころの録音はさほど多くありません。
第九はウィーンフィルとのスタジオ録音が残されています。

    ウィーンフィル、ウィーン楽友協会合唱団、
    S:ギューデン、A:ワーグナー、T:デルモーター、Br:ウェーバー  
   (1952年6月)
クライバーの第九は速いテンポでかっちりとまとめた現代的なベートーヴェンです。
情に流されず確信に満ちたテンポ運びの中に、音楽が生き生きと脈づいた生命力溢れる演奏でした。まさに息子のカルロス・クライバーが終生目標とした音楽がここでは実在の響きとして鳴り響いています。オーケストレーションの改変は皆無、極めて楽譜に忠実な演奏です。特にウィーンフィルの素晴らしい響きを生かしながら、淡々とした美しさを見せた第3楽章は素晴らしく、ギューデンを筆頭に当時のウィーン国立歌劇場のベストメンバーを集めた歌手たちが素晴らしい歌唱を聴かせる第4楽章も見事です。第1楽章や第4楽章で、予想外の部分でテンポをぐっと落とすところなど、ところどころに見せる粋な節回しはクライバー独特のものです。
難点を言えばアンサンブルに締りが欠ける合唱団と、録音編集に雑な点です。私が聴いたのは、デッカの国内LPですが、特に第4楽章では一部休符部分が欠落している部分がありました。
CDでは改善されているかもしれません。

    チェコフィル、合唱団(チェコ語による)、
    独唱者 不詳  
   (1949年5月  プラハの春音楽祭 リハーサル )
クライバーとチェコフィルは古くから深い関係を持ち、SP録音も何枚か残っています。
プラハの春音楽祭にも何度か客演し、特に1949年は、音楽祭のフィナーレを飾る第九を振っています。この会場練習の一部映像が残されていました。
収録されているのは、第4楽章器楽のみの歓喜の主題が盛り上がりを見せる部分と、
合唱が入るフロイデシェーネルゲッテルフンケン部分。
クライバーの元で演奏したアムステルダム・コンセルトヘボウ管の楽団員の手記には、クライバーの練習は、フルトヴェングラー、メンゲルベルク以上の実に素晴らしいものであったそうですが、まさにそのことが充分に納得できる練習内容です。オケと合唱が必死に食いついていく様子はとてもリハーサルとは思えない緊張感が漂っています。合唱と独唱はチェコ語による歌唱ですが、凝集力と緊張感に満ちた見事な歌唱を聴かせます。
クライバーの指揮は、要所を締める部分以外はほとんど左手を動かさず、右手も淡々と上下に振るだけの単純なものですが、緊張感に満ちた燃焼度の高い演奏を聴かせ、ウィーンフィルとのスタジオ録音を上回る演奏です。
(2001.09.25)
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